無垢材を使った家を建てようと思うと、木材の産地についての話題になることがあると思います。
例えば、「地元茨城県産の木材で家づくりをしています」だとか、「国産のブランド桧ですよ」など。
他にも、「その土地で育った木を使うのが良い」だとか。
でも、木材の産地について話されても「あぁ、すごいですね」って思う程度の方も多いと思うのです。
そこで、今回は木材産地の基本的な考え方についてお話しします。
無垢材の2つの特徴
木材の産地についての話に入る前に、まずは無垢材の特徴について簡単にご説明していきます。
少し無垢材について知っていた方が、この後の話が理解しやすくなります。
木材の産地について理解するために、知っておくべき無垢材の特徴が2つあります。
無垢材は乾燥すると変化する
1つ目は、「無垢材は乾燥すると変化する」という特徴です。
伐採する前の木は、地中に根を伸ばして大量の水分を吸い上げています。
水分は光合成に必要ですので、どの木でも基本的には一緒です。
表面的には乾いているように見える木にも、大量の水分が含まれているのです。
いくら無垢材とは言っても、大量の水分を含んだ木を伐採してすぐに木材として使用できるわけではありません。
木材として使用するためには、よく乾燥させることが必要だからです。
なぜ無垢材は乾燥しなければならないのか?
果物を例に考えていきましょう。
収穫直後の果物は多くの水分を含んでいて、見るからに瑞々しい様子です。
しかし、その果物も乾燥させると様子が一変します。
収穫した果物を放置しておくと、徐々に乾燥してシワシワになっていきますよね。
更に乾燥が進んでいくと、いわゆるドライフルーツの状態になります。
収穫直後の果物と比べると、ドライフルーツは小さくなり、形もかなり変わり、硬くなります。
この果物の変化は、みなさんも経験から想像できると思います。
無垢材も基本は同じです。
無垢材は乾燥すればするほど、痩せて、反り・曲がり・割れなどの変化が現れ、同時に強度も増していきます。
もし、家が完成した後に、無垢材が乾燥していったらどうなるでしょうか?
柱が曲がったり縮んだりしたら、家は傾いてしまいます。
無垢材は乾燥すると変化する特徴を持っていますので、無垢材は乾燥させてから使用するのが大前提です。
年輪の詰まった木が強い
無垢材の2つ目の特徴は、年輪の目が細かく詰まっている木ほど強いということです。
木の年輪を数えるとその木の樹齢が分かるというのは、聞いたことがあると思います。
何故こんなに数えやすくできているのかご存知ですか?
それは、年輪の白い部分が夏に成長した分で、黒い線の方が冬に成長した分だからです。
つまり、越した冬の数を数えれば、樹齢が分かるというわけです。
温暖な気候で木が順調に成長する夏と比べると、気温の低い冬は木の成長速度が低下するため、年輪に差が表れるのです。
年輪の目が詰まっているということは、木の繊維が密になっているということですので、木の強度にもつながります。
また、無垢材を乾燥させる場合においても、年輪の目が詰まった木の方が比較的変化が小さく、無垢材として使用しやすいという利点もあります。
この2つの特徴を踏まえながら、無垢材の産地について考えてみましょう。
建築する地域の気候で育った木を使用すべき?
無垢材の産地の話題になると、多くの人が「なんとなく国産材が良いのかな」と考えるようです。
その理由として、「Made in JAPAN」というイメージもあるのだと思います。
もう一つ、「その地域で育った木を使って家を建てると良い」と言われていることも理由なのかも知れません。
これは昔から言われていることなのですが、迷信などではなく、合理的な理由があります。
それは、先ほど説明した木は乾燥すると変化するという特徴にあります。
年輪の話でも触れましたが、温暖な地域の方が木は早く成長します。
家の建築に使用するような大きなサイズの材木を大量に手に入れるの場合、木の成長の早い温暖な地域の方が安価に入手できます。
しかし、温暖な地域で育った年輪の詰まっていない無垢材を寒さの厳しい地域で使用した場合、乾燥によって著しい変化が現れることが予想されます。
特に昔は無垢材の乾燥技術も十分ではなかったため、建築後に更に乾燥が進み変化が現れることは珍しくありませんでした。
その結果、家が傾いたり、戸が開かなくなりました。
建築後の木材変化を最小限にするために、「建築する地域の気候で育った木を使用すべき」と考えていたのです。
確かに、木の育った環境と無垢材が使用される環境が同程度の条件であれば変化は小さくなります。
これは合理的な考え方だと言えます。
しかしながら、現代の家づくりにそのまま当てはめられるわけではないのです。
現代住宅における木材変化の原因
無垢材の産地について考える上で、「木の育った環境」と「無垢材を使用する環境」を揃えた方が、無垢材の変化を抑える観点からも合理的だと説明しました。
この考え方の基本は現代でも変わらないのですが、「無垢材を使用する環境」の方に昔と今とでは大きな違いがあります。
伝統的な日本の住宅の場合、無垢材の乾燥のよる変化を引き起こすキーポイントとなったのは家を建てる地域の気候(湿度)でした。
しかし、現代住宅において地域の気候(外気)よりも厳しい条件の環境があります。
それは、室内の環境です。
夏は冷房、冬は暖房を使用することが一般的になり、1年を通じて室内が乾燥しやすい環境になりました。
いくら建築地域と同様の環境で育った木だと言っても、エアコンで乾燥し続ければ更に木材変化が生じる恐れがあります。
乾燥する室内環境に耐えうる無垢材とはどんな無垢材か。
それは、建築地より厳しい環境、つまり室内環境並みに厳しい環境で育った無垢材です。
寒冷な地域の厳しい環境でゆっくりと育った木は、年輪の目も詰まり強度もあります。
昔から言われていることを表面的に捉えるのではなく、考え方の根本を理解したうえで、無垢材の産地を検討する必要がありそうです。
産地から見る無垢材の価格
無垢材の産地を考えるとよく話題に上る、国産材と外国産材(外材)について考えます。
国産材といってもピンからキリまでありますし、外国産材についても同様ピンキリです。
ひと口に国産材が…、外国産材が…、とは言えないのですが概要として整理していきます。
全体としては、国産材の方が高価で、外国産材の方が安価だとされています。
ただ、この価格は品質の差によるものもあれば、そうでないものもあります。
コスト差が生まれる要因についてご紹介します。
品質の差
先ほど木の成長についてお話しする中で、寒さの厳しい地域の方が木が成長しにくいため、結果として年輪の詰まった良い木材になりやすいと説明しました。
その逆で、日本よりも温暖な地域であれば木はもっと早く成長しますので、やや木材強度は劣ります。
品質が劣る分、大木を安価に入手することも出来ますが、成長が早く目の詰まっていない木材は乾燥による変化が大きく現れやすいので、住宅の構造材としてはお勧めいたしません。
これは外国産材の品質が低いという意味ではなく、日本よりも温暖な地域の材木を日本の家に使用するのはお勧めしないということです。
日本よりも寒冷な地域で育った木であれば、日本の気候はもちろん現代住宅の室内環境にも耐えられる非常に優れた木材として使用できます。
成長の早い温暖な地域の木材が低価格なのはご理解いただけると思います。
しかし、コストを決めるのは木材の品質だけではありません。
もう一方の寒冷地域の高品質木材でさえも、国産材よりも低価格な傾向にあるのです。
品質とは別の部分に要因があります。
それは、木の伐採に関するコストです。
伐採コストの差
日本と海外では木の伐採にかかる費用が全く異なります。
まず、木がたくさん生えているところを想像してみてください。
日本人の多くは、山をイメージするのではないでしょうか。
事実、日本の国土の大部分は山ですし、木が多く生えているのも山です。
これは、日本の地理的な特徴です。
海外の場合、もちろん山にも木はありますが、広大な平野部にも森林が広がっています。
木を伐採して、運搬するのが簡単なのはどちらなのか。
もちろん、山よりも平野部の方が伐採も運搬も手間がかかりません。
山奥の斜面で木を伐採するのは手間もかかりますし、伐採した後もそこから運搬して流通させるためには多額の費用が掛かります。
平野部であればインフラも整いやすく費用は抑えられます。
また、斜面に生えた木と平野に生えた木とでは、木の成長のし方にも差があります。
成長の仕方によっては乾燥した段階で捻じれ・曲がりが生じやすくなり、せっかく伐採しても材木として使用できない可能性が高まります。
伐採しても商品として販売できないロスが発生したら、その分のコストを商品価格に上乗せするしかありません。
乾燥させてもロスが少ない方が、商品価格は抑えられます。
このように、伐採地域の地理的特性も無垢材の価格に影響しています。
計画的な植林
地理的には不利な日本の林業ですが、もちろん対策もしています。
日本の林業を代表する特徴があります。
それは、計画的な植林です。
日本の木は山に生えています。
山の木をただ伐採していけば、どんどん山奥に進んでいくしかありませんし、そこから運搬するためには莫大な費用をかけて道路も作っていかなければなりません。
それに、日本は国土に対して人口も多いですし、建築に限らず多くの木材を使用する文化ですので、大量に伐採をするだけでは資源が底をついてしまいます。
そこで、日本は古くから計画的に植林をしています。
植林される木の代表が杉です。
日本の気候に合っていて成長しやすく、建築にも適していることから、杉が植林されています。
近年では杉花粉による花粉症が深刻な問題になるほど杉が多くなっています。
こうした計画的な植林の結果として、日本では上質な杉材を比較的低価格で手に入れることが出来るようになりました。
無垢材の産地によってそれぞれの特徴があり、それが価格に反映されているのです。
ベースポイントの無垢材
私たちが無垢材に求めるものはシンプルです。
地震に耐えうる強度があり、いつまでも変わらぬ耐久性を持っていることです。
一生暮らす家を建てるために、適切な産地の無垢材を選定しています。
私たちは、寒冷地域でゆっくりと育ち年輪の詰まった無垢材と、国産の杉材を使用しています。
無垢材や産地を「ブランド」という色眼鏡で見ることなく、無垢材の品質を基準に選ぶことを大切にしています。
まとめ
木材は産地や種類によってそれぞれ特性が異なります。
そして、木材の使い方や家の構造によって、最適な木材も異なります。
そうした中で、どの産地のどの種類の木材を使用するかは基本的にはハウスメーカー次第です。
その木材を採用した理由を聞いてみると、各メーカーの考え方が分かりやすくなります。
家が完成するとほとんどの木材は見えなくなってしまいますが、家づくりは見えない部分ほど大切なのです。
今回のお話を参考にしていただき、ぜひ木材にも目を向けてみてください。