家の中心はLDK(リビング・ダイニング・キッチン)です。
食事をしたり、テレビを見たり、家族で一緒に過ごす時間のほとんどがLDKだと思います。
家の中心であるLDKの、さらに中心となるのがキッチンです。
キッチンは、家族の暮らしの中心であり、住宅設計の最重要ポイントの一つでもあるのです。
今回は家族の暮らしの質を大きく左右するキッチンと家事動線について解説していきます。
キッチンの家事動線の基本
1日の中でキッチンで過ごす時間は意外と長いのです。
キッチンまわりの家事動線の良さが、暮らしやすさにも大きく影響します。
ストレスなく使えるキッチンをつくるための、基本的なルールからご説明します。
キッチンのサイズ
キッチンには様々なサイズがありますが、横幅が2m40㎝または2m55㎝のものが一般的です。
奥行は60㎝~65㎝程度です。
アパート用ではもっと小さいタイプもありますが、一戸建てで長く使うことを考えれば、
2m55㎝のタイプを基準に検討するべきだと思います。
このサイズであれば全体に余裕もあり、ビルトイン食洗器を組み込んだとしても、
収納スペースも十分に確保することができます。
キッチンの通路幅
キッチンで作業する際にシンクやコンロへ行き来する通路がありますが、
この幅にも使いやすい幅が決まっています。
一般的に、キッチンの通路幅は90㎝~120㎝が使いやすいと言われています。
これは絶対条件ではなく、あくまでも目安です。
キッチンを使う人の体系によっても適した幅は変わってきますし、
キッチンを使う人数によっても変わってきます。
例えば一人で使用する場合は、90㎝程の通路にした方が家事動線は良くなります。
キッチンでの作業と背面の食器棚からの出し入れが、少ないステップでできるためです。
しかし2人以上で使用する場合、90㎝幅の通路ではすれ違う際にやや狭く感じると思います。
また、通路幅を考える際に忘れてはいけないのが冷蔵庫です。
一般的なカップボード(背面収納)や食器棚の奥行寸法は約45㎝程ですが、
冷蔵庫の奥行寸法は60㎝程ありますので、冷蔵庫の方がカップボードよりも出っ張ります。
たった15㎝・20㎝の差が、キッチンの家事動線に大きく影響してくるのです。
特にコンロの対面に冷蔵庫を設置した場合、冷蔵庫を開閉する際に
身体がかなりコンロ寄りになってしまいますので注意が必要です。
キッチンを使う人や冷蔵庫の配置まで考えて、通路幅を検討することが大切です。
ワークトライアングル
キッチンレイアウトの使いやすさを検討する際、参考になるのが「ワークトライアングル」です。
直訳すると仕事の三角形。
この三角形を形成しているのは、冷蔵庫・シンク・コンロの3点です。
キッチンで料理する時の家事動線は、「冷蔵庫→シンク→コンロ」と流れていきます。
長時間キッチンに居る場合も、「冷蔵庫→シンク→コンロ→冷蔵庫→シンク→…」と
このトライアングルをぐるぐる回る動きが基本になるのです。
この3点の距離感が適切だとストレスなくキッチンを使用できる家事動線になりますが、
動線がちぐはぐな配置になってしまうと、毎日毎日小さなストレスが重なっていきます。
ワークトライアングルは流れが大切なので、距離が近ければ良いというものではありません。
先程の使いやすいキッチン通路幅のお話でも書きましたが、コンロの対面に冷蔵庫があると、
動線は窮屈になってしまいます。
トライアングルの距離だけにとらわれるのではなく、
あくまでも冷蔵庫→シンク→コンロという家事動線の流れを意識した配置が基本です。
図面を見ながらパズルのようにキッチンを配置するのではなく、
実際の家事の流れを考えながら動線を検討しなければなりません。
代表的なキッチンレイアウト 3タイプ
キッチンの家事動線の基本を押さえたら、
次はキッチンレイアウトの代表的な3タイプについて知っておきましょう。
壁付キッチン
壁付キッチンはその名の通り、壁に向かって設置されているキッチンです。
最近は対面型のキッチンが主流になっていますが、以前は壁付タイプが主流でしたので、
実家のキッチンが壁付タイプだった、という方も多いと思います。
ペニンシュラキッチン
あまり聞きなれない響きかもしれませんが、ぺニンシュラキッチンは対面型キッチンの一種です。
先程の壁付キッチンは前面が壁に面していたのに対し、
ペニンシュラキッチンは側面が壁付になっています。
片側を壁付にする際、コンロ側が壁付になっているケースがほとんどです。
コンロと換気扇のある面を部分的に壁にしているタイプも多くあります。
アイランドキッチン
対面式キッチンのもう一つがアイランドキッチンです。
アイランドキッチンは写真映えもするので、憧れを持っている方も多いのではないでしょうか。
アイランド=島ですので、キッチンの周りをぐるりと一周できるのが特徴です。
コンロや換気扇の部分にも壁がなくオープンになっています。
キッチンレイアウト別のメリット・デメリット
キッチンレイアウトの代表的な3タイプをご紹介しましたが、
それぞれのタイプ別にメリット・デメリットについて解説していきます。
壁付キッチンのメリット・デメリット
<メリット>
空間の有効活用
対面式の場合には独立したキッチンの通路が必要となりますが、
壁付タイプの場合は通路とダイニングが一体となっているので、
限られたスペースでもキッチンの設置が可能になります。
棚や窓でキッチンの世界観をつくれる
壁付というと目の前にはただの壁があるだけというイメージがあるかもしれませんが、
その壁をどう利用するかでキッチンの雰囲気が変わります。
棚を付ければ使い勝手も良くなりますし、窓を付ければ開放感が生まれます。
対面風プランも可能
また、作業台を背面に設置することで、対面型のように使用するプランも可能です。
作業の時にはスペースが広く取れますし、そのまま食事することも可能なので、
家事のしやすいレイアウトです。
<デメリット>
コミュニケーションが取りづらい
キッチンを使う際にどうしてもリビングダイニングに背を向けることになるので、
家族とのコミュニケーションがやや取りづらくなってしまいます。
作業台のあるプランの場合、この点は少し緩和されます。
家事動線が悪くなりがち
壁付キッチンにした場合、冷蔵庫と食器棚のレイアウトが難しくなります。
壁際にすべて横並びに配置してしまうと動線が長くなりすぎるので、
キッチン・食器棚・冷蔵庫の配置に工夫が必要になります。
キッチンが見えやすい
リビングダイニング側からキッチンが見渡せるようになってしまうので、
洗い物やゴミなど、見せたくない部分まで見えてしまうことがあります。
ペニンシュラキッチンのメリット・デメリット
<メリット>
開放感がありコミュニケーションが取りやすい
キッチンがリビングダイニングと一体となることで開放感が高まります。
家族とのコミュニケーションも取りやすく、会話をしながらの作業も可能です。
程よくキッチンを隠すことができる
コンロ前を壁にしたり、手元を隠す程度の腰壁を設けることで、
開放感を感じながらもキッチンが丸見えにならないようにできます。
様々なタイプの間取りで採用できる
冷蔵庫や食器棚も含めたキッチン全体がコンパクトにまとまるため、
どのパターンの間取りでも設置しやすいのがペニンシュラキッチンです。
間取りとの相性の良さから、現在最もポピュラーなキッチンだと言えます。
<デメリット>
ニオイや油はねに要注意
キッチンに開放感がある分、リビングダイニングに料理のニオイが広がったり、
料理中の油はねがキッチンの外に広がってしまうことがあります。
コンロ・換気扇の部分だけ壁を設けるプランなら、この点は改善可能です。
壁やカウンターの造作費用がかかる
コンロ部分に壁をつくったり、キッチンの手元を隠すように腰壁やカウンターを設けた場合、
その分の造作費用がかかります。
キッチン本体の費用と別に造作費用が発生するので、しっかり予算を考えておきましょう。
アイランドキッチンのメリット・デメリット
<メリット>
空間の主役になれるデザイン性
アイランドキッチンのある空間はやはり魅力的です。
キッチン全体が見えるので、どんなキッチンを選ぶかで部屋の印象も大きく変わります。
圧倒的な開放感
リビングダイニングとキッチンが完全に一体となるので、広々とした開放感が感じられます。
キッチンで作業中もコミュニケーションを取りやすいので、ストレスを感じません。
周回できる家事動線
キッチンの周りを通れるので、最短距離で移動することができます。
キッチン内の家事動線だけではなく、洗濯など他の家事との行き来もスムーズになります。
スムーズな家事動線があれば、子どもたちがキッチンに立つ機会も自然と増えるかもしれません。
<デメリット>
キッチンがすべて見えてしまう
アイランドキッチンは完全にオープンタイプなので、キッチン全体が見える状態になります。
洗い物や汚れなど、見られたくない部分まで見えてしまいます。
また、完全オープンタイプのキッチンなので、どうしてもニオイや油はねが広がりがちです。
小まめな掃除や換気など、日々のお手入れが大切になります。
広めのスペースを必要とする
標準的な2m55㎝のキッチンを採用する場合、両側に通路を確保しようとすると
全体で4.5m程の幅が必要になります。
この長さを確保できる間取りは少ないので、間取り全体を調整する必要があります。
キッチンの価格が高め
アイランドキッチンは4面すべてを見せられるようになっているため、
キッチン本体の価格は他のタイプと比べて高めに設定されています。
その分、腰壁やカウンター等の造作費用をかけずに導入することが可能です。
キッチンレイアウトの選び方
代表的なキッチンレイアウトについて解説しましたが、それぞれにメリット・デメリットがあり、
どのレイアウトを選ぶか迷ってしまいますね。
この3タイプのどれが優れているかという話ではなく、それぞれのレイアウトごとに
家事動線や必要スペースなどが異なりますので、それぞれの特徴を把握しておくことが大切です。
特徴を理解した上で、自分たちの暮らし、間取りにはどのタイプが合うのかを考えてください。
今回解説したキッチンに加えて、L字型やコの字型のキッチン等もありますので、
一口にキッチンレイアウトと言っても本当に多種多様です。
キッチンは暮らしにおいても、設計においても、非常な重要なポイントですが、
キッチンだけがすべてではありません。
全体のバランスを考えながらキッチンレイアウトを選択してください。
まとめ
キッチンには通路幅やワークトライアングルなど、
使い勝手のいい家事動線をつくるために最低限押さえておくべきルールがあります。
基本を押さえたうえで、壁付キッチン・ペニンシュラキッチン・アイランドキッチンなどの中から、
自分たちのライフスタイルに合ったキッチンを選んでください。
どんなキッチンにするかよりも、どんな暮らしをするかの方が大切です。
この機会に自分たちの家事や暮らしについて整理してみてはいかがでしょうか。